2009年7月15日水曜日

「音のない世界で」('92 仏)



あるろう者の語り


 母は僕を連れてよく映画を観に行った。

 映画は大好きだった。視覚の世界だからね。
 役者の演技もすばらしくて感動した。

 役者が口をパクパク動かすのを見て
 あれなら僕にもできると思ったんだ。

 それ以来、役者になるのが夢だった。


 近所に有名な映画監督が住んでいたから
 映画に出演させて欲しいと頼んだんだけど、断られた。

 ”耳が聞こえないからダメだ”
 ”出演者は皆聞こえる” と。

 ”口マネなら僕にもできます”
 と言った。
 ”役者と同じようにね”

 ”ただの口マネに見えるかもしれないが
 役者は声を吹き込んでいるんだよ”
 君には絶対無理だ、聞こえないと役者になれない”

 それを聞いて落ち込んだ。絶望したよ。



ニコラ・フィリベールは好きな映画監督のひとりですが
このろう者たちの世界を撮ったドキュメンタリーは
ちょっとしたカルチャーショックでした。

手話も国によって違うそうですが
違う国の人でも、ろう者同士であれば
2日もあれば話が通じるようになるらしい。

ちょっとうらやましいですね。

知っているようでまったく知らなかった世界。
我々の暮らしている世界がいかに騒々しいものなのか
ということにも気付かされました。



ちなみに、映画には出てこないけど
世界で最も新しく誕生した言語は”ニカラグア手話”という手話なんだそうです。

1983年にニカラグアに初めてできた全寮制のろう学校の生徒たちの間で
手話による原始的なピジン言語(*)が発生し
それを受け継いだ下の世代がさらに複雑な表現をするようになり
現在のニカラグア手話と呼ばれるものになったらしい。

(*)=言葉が通じない人同士が意思疎通をはかるために自然に作られた混成語のこと


ニカラグア手話は、歴史上はじめて
学者たちによって誕生の瞬間が目撃された言語だそうです。